福岡国際マラソン スポーツ記者コラム 福岡国際マラソン公式サイト 福岡国際マラソン スポーツ記者コラム「聖地再び」

伝説の2人、「時代」と向き合う

2015年11月27日
森下広一監督(トヨタ自動車九州)
高岡寿成監督(カネボウ)

 今年の福岡国際マラソンの事前取材で、日本マラソン界の「レジェンド」といえる2人に話を聞いた。

 1992年のバルセロナ五輪銀メダルの森下広一氏(48)と、2002年に2時間6分16秒の日本記録をつくった高岡寿成氏(45)。ともに監督として、森下氏はトヨタ自動車九州、高岡氏はカネボウを率いている。最近の選手について聞くと、2人はそろって「体の弱さ」を指摘した。

 森下氏は鳥取県八頭町出身。実家は山の中腹にあり、八頭高時代は通学で山道を上り下りした。毎年10月、自身の名を冠した大会が開かれるのに合わせて帰省し、母校に顔を出す。そこで時代の移り変わりを感じるという。「部活動が終わると、生徒を迎えに来る保護者の車が、年々増えましたね。昔は体幹トレーニングなんていう言葉はなかった。生活の中で、自然に同じようなことをやっていましたから」。高岡氏もこう言う。「今は少子化でしょう。我々の時代は部活も子供が勝手にやっていた。今は親御さんも一緒に回って、一生懸命ですから」

 長距離選手を取り巻く状況も変わった。箱根駅伝がこれだけ注目を浴びるようになり、高校のトップ選手は大半が関東の大学に進むようになった。各大学が力を入れた結果、練習場、寮、食事、トレーナーなど至れり尽くせりの環境がそろう。ほかの実業団の関係者に聞くと、「大学のほうが環境がよかった」と言う新卒の選手もいるという。トラックのタイムを狙う記録会も頻繁に開かれ、大学生の1万メートル28分台は珍しくなくなった。ただし、実業団でさらに伸びる選手はひと握り。「条件が整わなければ走れない」「ここという大会に合わせられない」「けがが多く、なかなかマラソンまでたどりつけない」という声も聞いた。

 そんな時代に、世界と戦える選手を育てるにはどうしたらいいのか。明確な答えはない。森下氏も高岡氏もまさに今、それに向き合っている。2人に共通するのは、「俺たちの時代は……」と押しつける指導は無力だと分かっていること。指導者としては若く柔軟な2人が、何らかの答えに近づくことを願っている。

朝日新聞西部本社スポーツ担当 伊藤雅哉